単連結平面領域の持つ性質のうち、ここでは、リーマン写像を用いて記述される性質を“解析的”と呼び、そうではなくリーマン写像によらず領域のデータそのものを用いて記述される性質を“幾何的”と呼ぶことにする。ご存知のようにリーマン写像を記述することは一般には容易ではないので、原理的には等価なこの性質の“分類”も、実際的には意味を持つわけである。例えば原点を含む単連結領域が原点に関して星状(starlike)であるという幾何的な性質は、原点を原点に写す単位円板からのリーマン写像 f を用いて Re(zf'(z)/f(z)) > 0 と特徴づけられることが知られている。 0<α<1を定数として、さらにその領域が原点に関して位数αの強星状領域であるとは、 解析的に|Arg(zf'(z)/f(z)|<(πα)/2と定義される。この講演では、このような領域の幾何的な特徴付けをいくつか与え、その系として例えば次のことを示す。 「Dが位数αの強星状領域 ⇔ D^ が位数αの強星状領域」ただし、ここに z∈D^ ⇔ 1/z∈CP^1-closure(D) とする。時間が許せば応用として、 強星状領域のSchwarz微分に関する単射性内半径の下からの評価にも触れたい。
まず$n$-下双曲的($n$は非負な整数)多項式を定義する。 $n=0$の場合は古典的な下双曲的多項式のことであり、定義からそれは 無理的中立周期点を持たないが、一方$n$が1以上の場合には持ち得る。 本講演では、Yoccozによる2次多項式の無理的中立固定点に於ける線型化可能 性に関する定理を、1-下双曲的な多項式に対して一般化する。
Techmu\"uller space では定義域の変形がそのまま値域での変形と ならなければならないため、きわめて tight である。一方、多項式などの場合には 表現空間は係数で与えられ、変形との関連が vivid でない。 そこで、一般の整函数に対し値域での値に注目した新たな擬等角変形空間を導入し、 それが(多項式の場合を含む)いわゆる構造的有限な整函数の場合には、 自然な表現空間全体と一致することを示す。また構造的有限でない整函数の case studies についても述べる予定。
リーマン面のタイヒミュラー空間は、ベアス埋め込みによって双曲的L^\infty-ノルム が有界な正則二次微分の空間の有界領域として埋め込まれる。そしてそこには、タイ ヒミュラーモジュラー群が解析的自己同型群として作用する。特にリーマン面が一点 穴あきトーラスの場合には、二次微分の空間は1次元であるので、タイヒミュラー空 間は平面領域として実現され、タイヒミュラーモジュラー群はその領域の自己等角写 像のなす群として作用していることになる。 この講演では、一点穴あきトーラスのタイヒミュラー空間のベアス埋め込みの像に作 用するタイヒミュラーモジュラー群の各元が、微分の空間全体の擬等角写像に拡張さ れることを証明する。特に系として、タイヒミュラーモジュラー群の各元は埋め込み の像の閉包上にヘルダー連続に拡張できることが分る。
一点破トーラスのタイヒミュラー空間がフリッケ群全体と一致 することはよく知られている. そのときフリッケ群の可換化は一点破トーラ スから閉トーラスへの等角埋め込みを意味する. 本講演では複素平面上の長 方形及び菱形からなる実格子に対応するフリッケ群の可換化の具体的な方法 を示し, 保型関数論, 数論などとの関連を述べる.
Transcendental structurally finite entire functions の Julia 集合の Hausdorff dimension が常に2であることを示す予定
plumbing といわれる方法により、3g-3+n 個の (0,3) 型の Riemann 面 を円環領域をのりしろにして張合せることで、任意の (g,n) 型 の標識付き Riemann 面が構成できることを、terminal regular b-群という Klein 群を用いて Kra は示した (Journal of the A.M.S. 3(1990),499-578)。その際、の りしろである円環をユークリッドの意味での2つの同心円 で囲まれるような円環にとれるとき、tame plunbing という。Kra は標識 付き Riemann 面で tame plumbing で構成できないものが存在することを 示し、また標識を忘れた Riemann 面は tame plumbing で構成できるかを 論文の中で問題として出した。 今回の講演では、(1,1) 型、および (0,4) 型については、任意の 標識を忘れた Riemann 面が tame plumbing で構成出来ることを示す。
C^nの超球面上で連続な関数のグラフの多項式凸包についての 結果は1990年代に現れだした。そこで関数を写像に替えてみたところ、 異なる結論となる例が阪井章氏と共同で、それぞれ得られた。 さらに超球面をC^2のト−ラスに替えて、関数のグラフの 多項式凸包を調べている。これらのことを、多項式凸包の基本的な事柄や、 関連するバナッハ環の性質や、多項式近似問題などと織り交ぜて述べる。
A holomorphic germ $f(z)$ at a point $x$ with $f(x)=x$ and $f'(x)=\lambda$ is analytically linearizable at $x$ if there exists a conformal coordinate transformation $w=h(z)$ at $x$ with $h(x)=0$ and $h\circ f\circ h^{-1}(w)=\lambda w$. We consider the case where $|\lambda|=1$ but $\lambda$ is not a root of unity. In this talk, we shall study the non-linearizability of transcendental entire functions using Professor Taniguchi's synthetic deformation thoery of entire functions.
We shall exhibit that two permutable transcendental entire functions f and g of a certain type will have the same Julia sets, i.e.,J(f)=J(g).
次の2つの論文において独立に、Heisengberg tarnslationをもつPU(1,2;C)の部分群の離散性が論じられています。これらの結果の関連について述べたいと思います。
1. A. Basmajian, R, Miner, Discrete subgroups of complex motions,
Invent. Math. 131,85-136(1998)
2. J. Parker, Uniform discreteness and Heisenberg translatios,
Math. Z, 225, 485-505 (1997)
リーマン面の縮約タイヒミュラー空間上には縮約写像類群が等距離同相 写像として作用している。リーマン面が位相的有限型の場合には、その作用は離散的 であることがすでによく知られているが、無限型の場合には必ずしも離散的ではない 。この講演では、そのようないくつかの例を見た上で、リーマン面の幾何学的な性質 を考察することにより、無限型リーマン面に対して、縮約写像類群の作用が離散的に なるための十分条件を示す。
S を向き付け可能な種数2以上の閉曲面とする。 S 上の射影構造のタイヒミュラー空間 P(S) において、 ホロノミー表現の像が擬フックス群となる射影構造から成る部分集合を Q(S) で表す。Q(S) は1つのスタンダードな連結成分と無限個の エキゾチックな連結成分を持ち、各連結成分は擬フックス群空間と 双正則同値である。前回の講演では 「任意のエキゾチックな成分とスタンダードな成分の閉包は共通部分を持つ」 ことを示した。今回はエキゾチックな成分からスタンダードな成分に近づく 様子をより詳しく調べる。実際、エキゾチックな成分から腕が (少なくとも)2本伸びてスタンダードな成分にぶつかることを示す。 (Once punctured torus の場合は、この様子をコンピュータグラフィックスで 見ることができる:http://vivaldi.ics.nara-wu.ac.jp/~yamasita/ito/) 従って、擬フックス群空間においては、腕が2本伸びて自分自身にぶつかっている。 この事実は Dehn twist に2つの方向があることに対応している。 上の観察から「任意の2つのエキゾチックな成分の閉包は共通部分を持つ」 ことや「任意のエキゾチックな成分の閉包は境界付き多様体ではない」 ことも分かる。応用として、Book of I-bundle に入る双曲構造の変型空間 (これは幾つかの連結成分を持ち、任意の2つの連結成分の閉包 は共通部分をもつことが Anderson-Canary により知られている) の各連結成分の閉包が境界付き多様体でないことも分かる。
複素力学系,たとえば,有限生成クライン群の極限集合は 局所連結であると予想されており,その証明は現在の複素力学系理論の 重要課題のひとつである. この講演では,その問題には決して近づかず, 境界の局所連結性を仮定しないと,どんな起こりそうもないことが 起こりうるかの例 (paradox) を挙げ, それにもかかわらず証明できるいくつかの結果を述べる.
Painlev\'e 超越関数の増大度 T(r,w) を評価するという試みは 今までいろいろなされてきたが,それらはいくつかのgap を 含んでいた. ここでは,(I), (II),(IV) の Painlev\'e 超越関数について 位数が有限であることの比較的短い証明,さらには T(r,w) の具体的評価について述べる. さらに時間があれば (III), (V)についての結果にも言及したい.
一様John領域はJohn領域と一様領域の中間に位置する領域であり,複素力学系との 関連から,Balogh と Volberg によって導入された.彼らは一様John領域の境界が uniformly perfectという条件の下で境界Harnack原理を証明し,複素力学系に応用 している. ここでは,まず,Denjoy領域が一様John領域になる必要十分条件から始めて,一様 John領域の基本的な性質を見る.次に,境界Harnack原理が,実際はuniformly perfect無しで成立し,およびその応用としてMartin境界が内部距離の完備化によっ て得られ,すべてminimalであることを注意する.最後に,一様John領域がフラク タルの外部として構成されることを示す.今回は境界Harnack原理等のポテンシャ ル論的性質は結果を述べるだけにとどめ,一様John領域の幾何的な性質に焦点を当 てたい.
単位円板の有限葉被覆面の倉持境界の形状とDirichlet 積分有限な調和関数のなす族,分岐点の分布との関係について話す予定である.
リーマン球面上の有理関数で生成された、 写像の合成を積とする半群の力学系を考える。 従来のクライン群、有理関数の力学系、 フラクタル幾何学での複素平面での反復写像系を含む 広いクラスを考えることになる。 従来の複素力学系にならい、 半群のジュリア集合などを定義する。この場合、 ジュリア集合が半群の元で前向きに不変と限らないこと、 生成元の語の無限列w に対するジュリア集合J_{w}がwに対し一般には連続ではな いことが、難点となる。 本講演では、半群のジュリア集合の内点の有無、 半群に半双曲性などの条件を課したときに帰結される力学系的性質、 半群のジュリア集合のハウスドルフ次元の評価などを述べる。 手法は、従来の有理関数の力学系、反復写像系、 バンドル上の複素力学系のものの、混合である。
内山(Pacific J.Math.99(1982))は、ある種の極値的な BMO(R^n) 関数を 構成することで、BMO 関数に対する John-Nirenberg の評価が極めて精密 であることを示した。我々は、鎖長距離を利用すれば、R^n の一般の部分 領域上でも同様の極値的 BMO 関数が構成できることを示す。また、応用 として、BMO 空間を保存する可測写像の特徴付けを与える。
We investigate the dynamics of structurally finite transcendental entire functions, which was defined by Prof. Taniguchi. We will show that we can define an itinerary for the points which remain in some region under iteration and the set of all points which share the same bounded itinerary forms a curve which goes to infinity. Also these curves belong to the Julia set and the points on these curves tend to infinity under iteration. This is a generalization of the result by Schleicher and Zimmer (SUNY preprint, 1999) for the exponential family.
この研究の目的は、カスプを2つ持つ有限体積完備3次元双曲多様体の
片方のカスプにさまざまなデーン埋蔵を施すことにより得られる
カスプつき双曲多様体の標準的分割を決定することである。
そのような多様体族の強収束性により、標準的分割の「共通な」
部分を考察することは、理論的には、それほど難しくないことがわかる。
この研究の主題は、Jorgensenによる巡回的クライン群のフォード基本領域
の組合せ構造の決定を応用して、デーン埋蔵から影響を受ける部分の
挙動を考察することにある。
今回得られた結果は、カスプを2つ持つある多様体から得られる
カスプつき多様体の無限族に対し、「十分複雑なデーン埋蔵」を
施したものに対しては、標準的分割を決定できたということである。